●古屋兎丸『GARDEN』(イースト・プレス)
古屋兎丸の『GARDEN』は、2000年度にタコシェでもっとも売れたコミックである。単に人気商品だから紹介するのでなく、私はこの本が世に出ることを本当に待っていた。
この本の後半部分は袋とじになっていて、読者がそれぞれナイフを入れてページを開くのだが、そこに収まっているのが「エミちゃん」という作品で、作者は「エミちゃん」を読むための儀式として、読者に刃物を握らせようというのである。 この作品では、主人公のエミちゃんに不条理かつ変態的な残虐が次々と襲いかかり、その生々しい光景がハンドカメラで捉えたように、通常のコマわりなどを無視して、自動筆記のごとく展開される。そうして嬲り切り裂かれ汚された「エミちゃん」の死と再生により世界も新たに生まれ変わる…。古屋氏の作品の中で何度となく変奏される少女の犠牲の上になりたつ壮大な死と再生の物語の雛形がここにみてとれるのである。
この作品は雑誌「ガロ」に不定期に連載されていたのだが、突然のガロの休刊で、そのラディカルな連載方法や描き方、内容の受け皿がなくなり、先行きを危ぶまれた作品であった。当時「エミちゃんはどうするつもり?」と訊ねるると、古屋氏は「たとえば発表の場がなくても、描き続けていつか単行本にまとめたい」というようなことを健気に語ってくれたと記憶する。
デビューして間もないころ、古屋氏がタコシェに立ち寄ったとき、たまたま居合わせたまんだらけの古川社長に古屋氏を紹介しながら「古屋さんを知らないのぉ。注目株なんだから、今のうちに作品をキープしておくべきですよ」などと調子のいいことを言って、古屋氏に色紙を描かせ、古川社長にその場で買っていただいたことがあった。マジックで色紙を丁寧に描きつつ「こんなんでいいんのかなぁ」と恐縮する古屋氏に対して「いいのいいの、遠慮しないでお金貰っちゃいなよ」なんて言って、古屋氏はますます当惑していた。そんな姿を見ていたからこそ、アーティスト肌の氏が、連載誌の突然の休刊にへこんだりしながらも、志をつらぬき「エミちゃん」を上梓したことに対して感動はひとしおであった。その画力ゆえに高く評価され、メジャー誌でも活躍する一方で、相変わらずのアート指向と実験精神から、コミック以外にも活動の幅を広げる古屋氏。相変わらずまじめでひたむきなのに、ジャンルを拡大しつつ、次々に作品を上梓する様子を見ていると、私のはかりしれないしなやかさや才能や強さを潜在させているのだろうなと思い、今後ますます目が離せない。